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約120年ぶりに民法の一部が改正 敷金を含む賃貸借契約はどう変わる?
どこにもなかった賃貸借契約の内容を決める根拠
アパートやマンションなど賃貸物件を借りる際、賃貸人(大家)へ敷金(保証金)を預けるケースは多い。敷金とは、家賃の滞納や部屋の修繕に備えて契約時に家賃の1~2ヶ月分を預ける金銭のことだ。賃借人としては、きちんと毎月家賃を支払い、普通に住んでいれば退去時に戻ってくると考えるだろう。ところが「預けた敷金が『原状回復に利用する』と言われ1円も戻ってこない」といったトラブルはけっして珍しくない。独立行政法人 国民生活センターの発表によると、PIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク)に寄せられた賃貸住宅の敷金・原状回復トラブルに関連する相談件数は、毎年1万3,000件前後で推移している。なぜ、こんなにも多いのか。その理由の一つに賃貸借契約の内容を決める根拠となるものがどこにもなかったということがある。それによって賃借人と賃貸人の間に認識のずれが生じてしまうのだ。
このような背景から2020年4月1日、民法の一部を改正する法律が施行される。実は民法のうち賃貸契約を含む債権(お金を受け取る権利等)関係の規定は、1896年(明治29年)以降、約120年間ほとんど改正されていなかった。今回の改正では、契約に関する規定を中心とし、現代社会の実務で通用する基本的なルールを明文化するものとしている。本稿では、そのなかでも賃貸借契約について事例とともに解説したい。
PIO-NET(全国消費生活情報ネットワーク)に寄せられた賃貸住宅の敷金・原状回復トラブルに関連する相談件数は、若干減少傾向ではあるものの毎年1万3,000件前後とまだまだ数は多い(出典:独立行政法人国民生活センターホームページ)
賃貸物の修繕と譲渡された場合のルール
賃貸借に関する改正の主なポイントは4つある。
①賃借物の修繕に関する見直し
事例
「借家に住んでいるが台風で屋根が損傷して雨漏りがするようになった。次の台風が接近しており早く修繕したい」
借家はあくまで賃貸人のものだ。それゆえ賃借人が勝手に修繕するわけにはいかない。しかし、実際に雨漏りがしていたら、一刻も早く直したいはずだ。ところが改正前の民法では、どのような場合なら賃借人が修繕できるのかを定めた規定はなかった。そこで今回の改正では、次のような場合なら賃借人が修繕しても賃貸人から責任を追及されることがないことになった。
・賃借人が賃貸人に修繕が必要であることを通知、または賃貸人がそのことを知っていたのに、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき
・急迫の事情があるとき
②賃貸不動産が譲渡された場合のルールの見直し
事例
「Aさんは、Bさんが所有するアパートに住んでいた。しかし、Bさんはその物件をCさんに売却した。新しい所有者となったCさんは、Aさんに家賃を請求したが、AさんはBさんとCさんのどちらに払っていいのかわからないと言って払ってくれない」
改正前の民法では、このように賃貸借契約が継続している状態で建物の所有者が代わった場合の家賃請求に関する規定はなかった。そこで改正後の民法には、賃貸物である不動産が譲渡されたときは、原則として新たな所有者が賃貸人になるという規定が設けられた。ただし、新たな所有者が賃借人に対して家賃を請求するには、賃借物である不動産の所有権移転登記が必要となる。したがって、上記の例ではCさんが所有権移転登記を済ませていれば、AさんはCさんに家賃を支払わなければならないことになる。
原状回復義務と敷金に関するルールが明確化
③賃借人の原状回復義務および収去義務等の明確化
事例
「アパートを退去することになったが、賃貸人から日焼けした壁紙の張り替え費用をすべて負担するように求められた。普通に暮らしていただけなのに全額負担は納得できない」
原状回復義務の範囲に関しては、一般的に通常の使用によって生じた損耗と経年変化は対象としないことになっている。しかし改正前の民法では、そのことを明文化していなかった。改正後は、賃借人は賃借物(借りた部屋など)を受け取った後に生じた損傷について原状回復の義務を負うこと、ただし、通常の損耗や経年変化については原状回復義務の対象にならないことが明記された。通常の損耗とは、たとえば家具の設置による床の凹みや壁紙の日焼けなどだ。これらは賃借人の過失・故意によるものではないので責任を負う必要はない。一方で引越し作業中に生じた壁の引っかきキズやタバコのヤニ汚れは原状回復義務の対象となる。
④敷金に関するルールの明確化
事例
「アパートを借りた際に敷金として家賃の1ヶ月分を賃貸人へ預けた。数年後退去をしたが、家賃の滞納などがないのに賃貸人は1円も返還してくれない」
改正前の民法では、敷金(保証金)の定義や敷金返還請求権の発生時期に関する規定はなかった。改正後は、賃貸借契約が終了して賃借物が返還された時点で敷金返還債務が生じること、その額は受領した敷金の額からそれまでに生じた金銭債務の額を差し引いた残額であることなどが明確化されている。したがって、上記のように普通に暮らしていたのに1円も返還しないということは認められなくなった。
これからは根拠に基づく話し合いが可能に
今回の改正では賃貸借契約から生じる債務の保証に関するルールも見直された。具体的には極度額(上限額)の定めのない個人の根保証契約は無効となるルールが設けられたのだ。根保証契約とは、保証人となる時点でどれだけの金額の債務を保証するか分からない契約のことだ。たとえば、子どもがアパートを借りる際の家賃の支払いを親が保証するケースなどがある。
以上のように今回の民法一部改正によって、賃貸物件を借りる側(賃借人)の責任範囲が明確になった。これによって退去時に敷金の返還などでトラブルになっても根拠に基づく話し合いができるわけだ。
さらに詳しく知りたければ、法務省の下記サイトでパンフレットをダウンロードできる。これから賃貸物件を借りる人だけでなく、現在借りている人もぜひ目を通してほしい。
■法務省:賃貸借契約に関するルールの見直し
http://www.moj.go.jp/content/001289628.pdf
2020年4月1日の民法一部改正は、賃貸借契約の内容の根拠となる。賃貸物件に住んでいる人、またはこれから住む予定の人は「知っていれば……」と後悔しないために今のうちから改正内容を確認しておきたい
2020年01月06日 11時05分